その煤(すす)竹の笙、修理という選択の前に|煮竹・偽煤竹で作られた笙についてのご注意

菊理のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。

菊理は笙の修理や調律を多数承っていますが、今回の記事では「煤(すす)竹の笙」について、なるべく専門用語を使わず、丁寧に説明いたします。

はじめに|笙の洗い替え・修理のご相談を受ける中で

「とても上等な❝煤竹の笙❞があるんですけど、長く使っていないからメンテナンスをお願いしたいんです」

というご依頼やお問い合わせ、ご相談をよくいただきます。

「煤竹(すすだけ)の笙」ということで修理や洗替・調律などのご相談をいただきますすが、

  • 煮竹(にだけ)
  • 偽の煤竹(にせすすだけ)

で作られた「煤竹ではない笙」が、近年とても多くなっています。

本記事では、これらの笙の特徴や現状、修理・再生についての菊理の考え方を、雅楽の専門家の視点から丁寧にご説明いたします。

煮竹の笙とは|50〜60年前に多く作られた笙

美しい色ですが「煮竹」の笙です

煮竹(にだけ)の笙は、今からおよそ50〜60年ほど前に盛んに製作されたものです。

煮竹とは、竹を濃い小豆色の染料で煮て着色したもので、笙の音色と特徴的な造形を形づくる17本の細い竹の加工に用いられてきました。

煮竹の笙が人気だった理由

なぜ、わざわざ煮た「煮竹」が盛んに作られたのか?それには、次のような煮竹特有の大きな特徴があります。

  • 濃い小豆色の美しさ
  • いかにも「古管」のような雰囲気を醸し出せる
  • 見た目が大変高級そうに見える

こうした理由から、当時は非常に人気があり、多くの煮竹の笙が世に出回りました。

煮竹の最大の問題点|強度の限界と破損

しかし、煮竹は竹本来が持つ強い縦方向の繊維の寿命を極端に縮めてしまうという、大きな問題を抱えています。そのため現在では、

  • 強度的にすでに限界を迎えているため
  • わずかな衝撃でも竹が折れてしまう

といった事例が最近特に多くなっています。

煮竹の笙」の修理が難しい理由

一度破損してしまった煮竹は、基本的に修理が不可能です。竹を交換するという方法も理論上は考えられますが、17本すべてが同様に劣化しているため、

  • 1本修理しても、他の竹が次々に折れる可能性が高い
  • 高額な修理費用に見合う結果が得られない

といった理由から、菊理は「煮竹で組まれた笙」の修理をおすすめしていません。

思い出の笙としての価値について

煮竹で作られた笙は、

  • お父様やお祖父様など、先人から受け継いだもの
  • ご縁のある方から譲り受けたもの

など、由緒や思い出の詰まった笙である場合が多く見受けられます。

長年使われずに保管されていたり、破損した状態であったりすると、「何とか楽器として再生できないか」とお考えになるのは、自然なお気持ちだと思います。

ただし、よほど特別な事情がない限りは無理に修理を施すよりも、思い出の笙・大切な品としてお手元に置かれることを、菊理は煮竹の構造や修理できない理由も含め、丁寧にご説明しています

偽煤竹の笙について解説

煮竹とは別に、「偽煤竹」で作られた笙も世間には流通しています。これらは、

  • 塗装
  • 焼き付け
  • 着色加工

など、さまざまな方法で煤竹に似せた竹を用いて作られています。

偽煤竹の問題点

偽煤竹の笙は、

  • 粗悪な竹材が使われていることが多い
  • 本来は低価格であるべきもの
  • 高級品に見せかけて高額で販売されるケースがある

といった問題を含んでいます。

これらの笙もまた、高い費用をかけてメンテナンスし、楽器として再生することは、あまりおすすめできません。

なぜ本物の「煤竹」は高級品なのか

本物の「煤竹の笙」

では、なぜ煤竹で作られた笙は高級品として珍重されるのでしょうか

それは、煤竹が

  • 長い年月、薪や炭火などの煙や煤で燻(いぶ)されているため
  • しっかり乾燥しつつ、繊維の中に油分が染み込んでいることから
  • 繊維密度が高く、堅牢で劣化しにくい

という特性を持つためです。その結果、

  • 竹材が音を吸収しにくい
  • 澄んだ音が楽器全体に響く

という、笙にとって理想的で最高級の材料となります。しかし、煤竹は茅葺き屋根の古民家の天井裏で、囲炉裏の煙に100年以上燻され続けた竹をいい、現在そのような古い民家は激減しており、新たに入手することがほぼ不可能です。また、長年燻されてできる煤竹は人工的に短期間で作ることができません。

「長い年月」「自然の燻煙」「希少性」「音響的な優秀さ」
という条件が重なって初めて生まれるため、「煤竹の笙」は最高級と位置付けられています。

骨董店・オークションでの購入について

骨董店やオークションなどで、煮竹や偽煤竹の笙が販売されていることもあります。購入された方、これから購入を検討されている方もいらっしゃるかと思いますが、先に述べた通り、

  • 煮竹の笙
  • 特に古い偽煤竹の笙

は、すでに楽器としての寿命を全うしたものとお考えいただくのが無難です。古い楽器でも、手を入れれば楽器として再生できるものも無くはないですが、少なくとも、煮竹や偽煤竹で作られた笙については、中古楽器として、お勧めはいたしません。

笙は非常に繊細な楽器です|修理の難しさ

煤竹や煮竹など、使われている材料に関わらず、笙は非常に精密でデリケートな楽器です。

下部のお椀状の部分は、

  • 匏(ほう)
  • 頭(かしら)

とも呼ばれ、そこに17本の細い竹が差し込まれています。

根付(ねつけ)と息もれ

17本の竹の差し込み部分を根付(ねつけ)と呼びますが、

  • 根付と穴の密閉が悪い(ゆるい)

場合には、息漏れが起こり、非常に吹きにくくなります。軽い息漏れであれば、漆の塗り直しなどで修理可能な場合もありますが、

  • 根付が欠けていたり割れていたりする
  • 根付と竹の継ぎ目が折れている
  • 匏側の差し込み穴が欠けている
  • 匏そのものが割れている、欠けている

といった状態では、特に匏の交換が必要となる場合、笙の組み立て工程の順序が逆になるため、

  • 修理は非常に難易度が高い
  • 費用が高額になる
  • 完全に元通りにならない可能性がある

といったリスクを伴います。

まとめ|笙の存在価値を大切に

煮竹や偽煤竹の部材が使われている笙、また大きな破損がある笙については、

  • 高額な費用をかけて楽器として再生するよりも
  • 思い出の楽器、あるいは骨董品として

お手元で大切に楽しまれることで、笙そのものの存在価値を見出していただければと考えています。本記事が、笙の修理や購入をご検討される際の一助となれば幸いです。

「倉庫に古い笙がある」
「蔵から使われていない古い笙が出てきた」
「自分の煤竹の笙が煮竹かどうか分からないが修理出来るのか」

そんな方も、どうぞお気軽に菊理にご相談ください。なるべく専門用語を使わず丁寧にご説明いたします。

雅楽菊理
文化庁「文化芸術による子供育成総合事業」協力芸術家
古物商許可証番号:愛知県公安委員会 第543952103200号